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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)3282号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一被控訴会社が東京穀物商品取引所外六取引所に所属する商品取引員であつて、商品相場の仲介を業とするものであることは、当事者間に争いがない。

二まず、控訴人と被控訴会社との間の法律関係について検討する。

1 <証拠>を総合すると、控訴人は昭和三五年七月被控訴会社の外務員である訴外斎藤登喜子に雇用され、被控訴会社本店営業部店舗において斎藤の許で罫線書き、伝票整理等の外務行為の補助事務を含む一般事務に従事するようになり、約半年後からは外務行為にも従事するようになつたこと、給与は斎藤から固定給(月給)と年二回のボーナスが支払われ、一、二年に一回昇給したこと、控訴人が外務行為にも従事するようになつたため、被控訴会社は昭和三八年控訴人を同社の外務員として控訴人主張の各商品取引所に登録し、以後二年毎にその更新手続をしたこと(右登録とその更新の事実は当事者間に争いがない。)、昭和三八年以後は固定給に売り買いの取扱量に応ずる歩合給を加えたが、その固定給の額と歩合とはいずれも斎藤と控訴人との間で取決められたこと、控訴人個人が単独で担当した売り戻しと買い戻しも含めて、斎藤と控訴人が担当した売り戻しと買い戻しはすべて斎藤の名義で被控訴会社に報告され、それに応じて被控訴会社は斎藤に歩合給を支払つていたこと、昭和四三年登録外務員の新制度が発足し、控訴人は社団法人全国商品取引所連合会の資格試験に合格したので、被控訴会社は控訴人を引続き同社の外務員として各商品取引所に登録し、以後二年毎にその更新手続をしたこと、以上のことが認められ<る。>

従つて、控訴人は昭和三五年七月以降継続して斎藤に雇用されていたものであつて、昭和三八年以降被控訴会社に雇用されたと認めることはできない。なお、商品取引所法においては登録外務員は商品取引員の使用人(又は役員)であることが前提となつているが(同法第九一条の二等参照)、被控訴会社が控訴人を同社の外務員として登録したことの故をもつて被控訴会社が控訴人を雇用したとみなすことはできない。

2 <証拠>によると、(一)被控訴会社は昭和三五年以来控訴人に同社の職員である旨の身分証明書を交付していること、(二)被控訴会社の社員旅行に控訴人も参加していたこと、(三)被控訴会社が控訴人を同社の外務員として各商品取引所に登録する際は、同社が控訴人を雇用する旨の雇用届を提出したこと、(四)被控訴会社は昭和三八年以後控訴人に同社の女子従業員用の制服を着用させていたこと、(五)被控訴会社は昭和三八年以後控訴人に同社の外務員用の名刺を支給していたこと、(六)被控訴会社は昭和三八年以後同社の職員録に控訴人を昭和三五年七月入社の外務員として登載していたこと、(七)被控訴会社は昭和三八年控訴人から同社の外務員用の誓約書(「外務員として貴社に採用せられ……」、「万一貴社に損害を及ぼしたときは、速やかにその全額を弁償します。」等の記載があつて、控訴人が署名捺印しており、更に保証人として控訴人の母である訴外井熊いと及び斎藤が署名捺印している。)を提出させ、以後も登録の更新毎に提出させていたこと、(八)昭和四九年まで被控訴会社は同社の外務員に盆・暮に支給する金一封を控訴人にも支給していたこと、(九)控訴人が昭和四六年青年の船に参加した際、被控訴会社が控訴人を同社従業員(営業部所属)との扱いで参加承諾書を発行したこと、(一〇)控訴人は昭和四八年四月被控訴会社の申請により同社勤続一〇年の功労外務員として東京穀物商品取引所取引員協会から表彰されたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。また、(一一)後記三のとおり被控訴会社は控訴人の同社の外務員としての登録を抹消する際、配置転換を理由としたことが認められる。そして、前掲各証拠と前記1において認定した各事実を総合すると、右(一)は当初は控訴人が通勤定期券を購入するための便宜を目的としてなされたことであること、右(七)は控訴人は外部からは被控訴会社に雇用されている外務員のように見えるので、同人がした外務行為によつて被控訴会社に責任が及ぶ場合に被控訴会社が控訴人等に責任を追求する目的でなされたことであること、右(二)ないし(六)及び(八)ないし(一一)は控訴人が被控訴会社本店営業部店舗において執務していることから被控訴会社が便宜上又は優遇して同社に雇用されている外務員と同様の処遇を与える目的でなされたことないし被控訴会社が控訴人を同社の外務員として登録したため同社に雇用されている外務員であるような形式を整える必要が生じ外部に対し控訴人を同社に雇用されている外務員と同様に取扱う目的でなされたことであることが認められ<る。>

従つて、右(一)ない(一一)はいずれも前記1においてした判断に抵触するものではなく、また控訴人が被控訴会社に雇用されていたことの根拠となるものでもない。

3 ところで、被控訴会社は控訴人を雇用してはいないが、控訴人を同社の外務員として登録しており、本来法制上登録外務員は商品取引員の使用人であるべきこと、そのため前記2の(三)、(五)、(六)、(八)、(一〇)、(一一)等がなされたこと、被控訴会社は控訴人によつて同社が雇用している登録外務員と同様の経済的利益を得ていたことを考え合わせると、被控訴会社と控訴人との間の使用人でない登録外務員という違法状態は解消されることが望ましく、その一方法として控訴人が斎藤との雇用関係を終了させ被控訴会社に直接雇用されるという可能性があつたものである(このことは、当審証人池田善次郎の証言により、被控訴会社が控訴人の外務員登録を抹消して紛争が生じたのち、被控訴会社が控訴人と斎藤の双方に対し、控訴人と斎藤との間の雇用関係を終了させ被控訴会社が控訴人を直接雇用し外務員として再登録するとの和解案を提示したことが認められることからも、明らかである。)。そうとすれば、控訴人が被控訴会社に対し直接雇用するよう要望した場合、被控訴会社は右要望に応ずるかどうかを誠実に検討しなければならない立場にあつたものというべきであり、控訴人は被控訴会社の登録外務員であることにより右の限度で法律上の保護を受けうる地位にあつたと解すべきである。

三つぎに、被控訴会社が控訴人の同社の外務員としての登録を抹消した経緯について検討する。

<証拠>によると、斎藤は昭和五一年五月中旬頃被控訴会社の総務課において外務員の登録に関する事務を担当していた訴外田島義彦に対し、控訴人の同社の外務員としての登録を抹消するよう申し出たこと、その際田島が斎藤に対し本人の諒解の有無を尋ねたところ、斎藤は自分から本人に諒解される旨を答えたこと、右申し出に応じて田島は配置転換を理由として各商品取引所の控訴人の登録の抹消を求める同月二〇日付の届出書を作成して手続をし、同月三一日付で控訴人の被控訴会社の外務員としての登録が抹消されたこと、斎藤は控訴人に対し外務員としての登録の抹消について諒解を得ないばかりか、斎藤、被控訴会社とも控訴人に対し事後に至つても右抹消の手続をしたことを知らせず、右抹消は控訴人の意思に反するものであつたこと、以上のことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四被控訴会社は控訴人から直接雇用するよう要望されれば右要望に応ずるかどうかを誠実に検討しなければならない立場にあつたから、斎藤が控訴人の同社の外務員としての登録を抹消するよう申し出た際には、被控訴会社としては、右申し出に応じて直ちに右登録を抹消すると控訴人が同社に直接雇用されて正常な登録外務員となる可能性を奪つてしまうことになるので、控訴人に対し斎藤から右申し出があつたことを告げ同社に直接雇用されて正常な外務員となる意思があるかどうかを確かめるべきであつたものである。ところが、被控訴会社は控訴人に無断で同社の外務員としての登録を抹消し、その結果控訴人は同社に直接雇用されて正常な登録外務員となる可能性を失つたので、被控訴会社の右登録の抹消は控訴人に関し違法な行為であり、かつ、控訴人が同社に直接雇用されて正常な登録外務員となる可能性を失つたことによつて控訴人が損害を被つたことにつき被控訴会社には少くとも過失があるというべきである。なお、被控訴会社に対し斎藤が控訴人の同社の外務員としての登録を抹消するよう申し出た際、同社の田島が斎藤に対し本人の諒解の有無を尋ねたところ斎藤が自分から本人に諒解させる旨を答えているが、被控訴会社の責任内容は前述のとおりであつて、右事実をもつて被控訴会社がその責を免れると解することはできない。

五そこで、控訴人が被つた損害について検討する。

控訴人は被控訴会社に対し、控訴人に無断で同社の外務員としての登録を抹消された結果同社に直接雇用されて正常な登録外務員となる可能性を失つたことによつて被つた損害について賠償を求めることができる。従つて、控訴人の同社の外務員としての登録が存続して斎藤のもとで働くことを前提とする控訴人主張の財産的損害は、右損害として認められないことはいうまでもなく、結局精神的損害のみを認めることができる。そして、控訴人が被つた精神的損害を慰藉する金額は金二〇万円が相当である。

(倉田卓次 高山晨 大島崇志)

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